『妖光の帷』を引き上げたら・・・・・
平安京と名付けられたこの国の都は、今日もその名に反して魑魅魍魎が跋扈している。
先日の大事件の後遺症の怪異も、まだ各所に残っている。
その鬼どもに対するエキスパートであるはずの、陰陽師安倍晴明の邸は、そんな事は知ったことかと言わんばかりに、男2人の楽しげな酒盛りの真っ最中であった。
まあ、彼が特別動き出さないということは、特に危機迫った状態ではないということなのだろうが・・・・・
さて今日は、彼の親友、藤原将之が、良き肴を土産に訪ねて来ていた。
酒を飲みつつ肴を摘みつつ、世間話などしているが・・・・・
急に思い出したように将之が晴明に尋ねたのが、事の始まりだった。
「なぁ、晴明。あれから千早の君とはどうなってるんだ? 何か進展あったのか?」
晴明は、口に含んでいた酒を思わず吐き出す。
「ど、どうって、お前。私が、どうして。」
日頃、沈着冷静な晴明が、しどろもどろ。
晴明の顔が赤くなってきているのは、酒のせいばかりではないのではないか。
「だってこの間、折れた千早丸を返しに行った時、いい感じだったんだろ?」
先日、影連を斥けるために千早の君から借りた、退魔の剣・千早丸だったが、退魔の最中に折られてしまったのである。
それを晴明が、お詫びかたがた返しに行ったのだ。
「どこからそう言う話が出て来るんだっ!!って、そもそも、何でお前がそんなこと知ってるんだ?・・・・・将之・・・・・お前!立ち聞きしてたなぁっ!!!」
ぶちっ
何かが切れた音がしたような気がする。
「ご、誤解だっ!俺じゃないっ!」
「俺じゃないぃ〜?じゃあ、誰なんだっ!」
晴明の追求は執拗を極めている。
さすがに盗賊だ、悪霊だってくらいでは後に引かない勇猛果敢な将之も、たじろいでいた。
晴明に睨まれた、鬼どもの気持ちがよく分かる。
「そ、それは・・・・・口止めされてるし・・・・・ま、いいじゃないか、な?晴明。」
「よくないっ!!!」
思わず、将之の胸ぐら掴んだ晴明だったが、ふと、何かひらめいたように手を離した。
「!・・・・・氷月、だな?あの女なら、やりかねん。そうだな?将之!」
「さ、さぁ?ど、どうだったかなぁ。はははははっ。」
晴明の目は確信に光り、将之は蛇に睨まれた蛙のようだ。
「よけいな噂をばらまきやがって、どうしてくれよう。」
このおっそろしいまでの剣幕にびびりながらも、
「せ、晴明?とりあえず、落ち着けよ、な。たぶん喋ったのは、俺ぐらいだって。まあ、酒でも飲めよ。」
と、何とか収めようと、酒を勧めてみる。
が、無駄な努力だったようだ。
すっくと立ち上がった晴明は、
「なぐり込んでやるっ。」
と、邸を出て行ってしまったのであった。
1人取り残された将之は、呆然と晴明の後ろ姿を見送っていたが、ふと我に返ると、
「しまった。追って行って、止めなきゃまずいかな。」
と呟く。
「でも、まあ氷月なら、うまく丸め込むだろ。」
と、結局、さわらぬ神に祟りなし、を決め込んでしまった。
そして、1人で酒盛りに続きを始めたのだった。
「しっかし、あんなに怒り出すとはなぁ・・・・・・・・やっぱり、図星だったのか?」
真っ赤になって怒りだした様子を思い出すと、何だかとっても可笑しくなってきて、うまい酒がますますうまく感じた。