a beginning
魔晄都市ミッドガル、1番街。そこは今日も賑わっていた。
劇場やデパートなどのある歓楽街のため、休日は特に凄まじいほどの人通りである。
そんな雑踏の中、1人の女性、いや少女と言った方が似合うような、あどけない感じの娘が歩いていた。
腕には大ぶりの籠を提げ、その中には、このミッドガルでは珍しい生花が入っている。
花売りのようだ。
その花も、人工的に作られた高価な花ではなく、普通の地面に生えているような野の花。
そんな珍しいものであるから、買って行く人も多いと見え、あと数本を残すのみである。
娘がふと道端を見ると、脇に延びた石段に、がたいのいい若い男が腰掛けている。
その体格の割に何だかぐったりとしていて、(気分悪そう)と思った娘は、男に声をかけた。
「ねぇ、だいじょぶ?」
「あ?」
男は驚いたように顔を上げた。
「気分悪そうだから。どっかで水でも貰ってこようか?」
「いや、大丈夫だ。少し人混みに酔っただけだから。」
笑顔がよく似合いそうな顔に、弱々しい微笑みを浮かべながら、男はそう言った。
黒髪に薄青い瞳が印象的だった。
それは魔晄の眼。神羅のソルジャーに共通の色だった。
「あなた、ソルジャーなの?」
娘は隣に座りながら、臆することなくそう尋ねる。
この男に興味を覚えたようだ。
「ああ。やっぱりこの眼が気になるかな?」
「そんなこと無いけど。あなた大きいし、そうなのかなって。でも、ソルジャーがこんなとこで、気持ち悪くて休んでるなんて、何かへん。ふふふっ。」
結構思ったことをずけずけ言う娘である。
この黒髪のソルジャーはあまり気にしないたちなのか、あっけらかんと答える。
「人混みって、俺苦手なんだよ。田舎から出てきたばっかりだからさぁ。」
「じゃあ、出かけなきゃいいじゃない、こんなとこ。」
「やっぱりミッドガルに居るからには、見物しなくちゃだろ。あんたミッドガルの人かい?」
「ええ。スラムだけどね。」
「おーっ!丁度いい。上はあらかた回ったし、今度はスラムを開拓しようと思ってたんだよ。案内してくれよ、な!」
大げさに驚いて見せたこのソルジャーは、娘にそう頼み込む。
「私が?どうして?」
「まあ、いいじゃないかよ。ほら、気分も良くなってきたし、心配してもらったお礼に何かごちそうするよ。」
「いいわよそんな。私まだ仕事があるんだから。」
「仕事?何してるんだ?」
「この花を売ってるのよ。」
娘は、花の入った籠を前に押し出して見せた。
ソルジャーは籠を覗き込むと、
「へぇー、本物だろ。珍しいなぁ。ここに来てから見たの初めてだ。田舎にはいっぱいあったけど。ミッドガルにも咲くのか?」
嬉しそうに、そう尋ねた。
飛び出してきた田舎のことが思い出されたようだ。
機械文化の最先端の都市であるミッドガルに居ると、自然の景観が本当に懐かしく思い出されるのだろう。
そんなソルジャーに親しみを覚えたのか、娘は微笑むと、秘密を打ち明けるように言った。
「特定の場所だけに、ね。」
それを聞いて、彼の顔はますます明るくなった。
いったいこのソルジャーの顔は、どこまで明るい表情が出来るのだろうか。
「よし、そこにも連れてってくれよ。久しぶりに花畑なんて見たいなぁ。」
「だから仕事があるって言ってるじゃない。」
「この花は俺が買う。それで仕事はおしまい、だろ? さっ、行こうぜ!」
黒髪のソルジャーは立ち上がると、娘の腕を引っ張って立ち上がらせた。
「もう。強引なんだから。心配してあげて損したわ。」
そう言う割には、娘の目は笑っている。
「そう言うなよ。俺はザックス。あんたの名前は?」
「エアリス、よ。」
「じゃ、エアリス、行こう。」
「しょうがないわね、もう。」
2人は歩き出した。スラム行きの列車のある、駅に向かって。
そして、2人の運命も廻り始めた。